
業務棚卸しは、試す作業と確認方法を決める準備
この記事で扱うAI業務棚卸しは、社員の仕事を書き出し、生成AIで試す部分と人が担当する部分を整理する作業です。社員20〜100人程度で、経営者や総務担当者がAI導入を兼任する会社を想定しています。
最初は一部署や一人の担当業務から始められます。繰り返す仕事のほか、月末や繁忙期だけに発生する仕事も聞いてください。担当者には「何に時間がかかるか」「何が終われば完成か」「間違うと誰が困るか」を尋ねます。
以下の棚卸し手順とテンプレートはAMANEZUKUが作成した提案です。公式の認定様式や導入効果の実測ではありません。
一行には、入力と完成形が分かる作業を書く
「営業」「経理」のような部署名だけでは、AIに何を頼むか決められません。「公開済みの商品説明から案内メールの下書きを作る」のように、作業を一つずつ書いてください。
| 広すぎる業務名 | 棚卸しに書く作業の例 | 完成させるもの |
|---|---|---|
| 営業活動 | 公開済みの商品説明から案内メールを下書きする | 担当者が確認するメール案 |
| 会議対応 | 会議メモから決定事項と担当者を抜き出す | 元のメモと照合できる一覧 |
| 経理処理 | 請求データの合計額を集計する | 計算式と元データで確認できる集計表 |
請求額の集計のように計算方法が決まった作業では、表計算の関数や既存システムで処理する方法も検討します。棚卸しでは、作業自体の廃止、書式の統一、転記の削減も候補に残してください。
頻度、入力情報、確認担当者をそろえる
担当者への聞き取りでは、次の項目を埋めます。分からない項目には「未確認」と書き、確認する人と次の対応を残してください。所要時間は準備から最終確認までの一回分を記録します。
| 項目 | 聞くこと |
|---|---|
| 発生頻度と所要時間 | 月に何回発生し、一回に何分かかるか。実測か担当者の見積もりか。 |
| 入力と完成形 | 元の資料は何か。完成した文章や一覧には何が必要か。 |
| 情報と利用環境 | 公開情報、社内限定情報、個人情報、営業秘密のどれを含むか。どのAI環境で入力を認めているか。 |
| 人の確認 | 誰が、どの資料と、どの項目を照合するか。 |
| 誤りの影響 | 間違いが社内の手直しで済むか。顧客への約束、金額、安全などに影響するか。 |
| 試す範囲 | AIに頼む部分と、人が判断・送信・承認する部分はどこか。 |
同じ会議でも、社内行事の段取りと人事評価の面談では扱う情報が異なります。業務名だけで入力の可否を決めず、実際に使う資料を担当者が確認します。
入力条件と確認方法が決まった業務から選ぶ
最初の試行には、会社が認めたAI環境で公開情報や架空情報を使い、担当者が元の資料と照合できる作業を選びます。実データを使う場合は、その入力範囲を会社で確認してから進めてください。
IPAの「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」は、生成AIが期待と異なる回答をする可能性と、クラウドAIへ営業秘密を渡すリスクを説明しています。入力情報の条件と出力の照合方法を、業務ごとに記録する理由です。
個人情報保護委員会の注意喚起では、個人情報を含む入力が利用目的に必要な範囲かを確認するよう求めています。本人の同意なく個人データを入力する場合について、サービス提供者が機械学習に利用しないこと等の確認も示しています。学習利用の設定だけで、すべての入力条件を満たすとは判断できません。
| 棚卸しの状態 | 次にすること |
|---|---|
| 試行候補 | 利用環境、入力範囲、照合する資料、確認担当者が決まっている。まず下書きや整理の範囲で試す。 |
| 条件確認 | 入力の可否や確認担当者が未確認。担当者と確認し、必要なら架空情報に置き換えて試す。 |
| 別手段・後回し | 正誤を確認できない、誤りの影響が大きい、既存の計算や自動化で対応できる。確認体制や別の改善方法を検討する。 |
「試行候補」が複数あれば、繰り返す回数が多く、入力を準備しやすい作業から一つ選んでください。頻度や時間の点数を足すだけでは、情報管理や確認の不足を判断できません。
架空の三業務を比べてみる
次の業務と数値は説明用の架空例です。顧客事例、実測値、時間削減の予測ではありません。月の回数は会社全体の処理件数、一回の時間は一件を終えるための合計作業時間としています。
| 業務 | 月の回数・一回の時間 | 情報と確認方法 | 判断例 |
|---|---|---|---|
| 商品案内メールの下書き | 20回・15分 | 公開済みの自社商品説明を使う。営業担当者が仕様と表現を照合する。 | 下書きの試行候補。宛名の追加と送信は担当者が行う。 |
| 採用応募者の評価 | 10回・30分 | 履歴書や面談記録を含む。個人情報の扱いと評価基準の確認が必要。 | 最初の試行は後回し。入力条件と評価の責任を先に整理する。 |
| 請求データの合計額集計 | 4回・25分 | 社内の金額データを使う。元データと計算式で照合する。 | 表計算の関数や既存システムを先に検討する。 |
商品案内メールの現在の月間作業量は、20回×15分=300分です。300分すべてが削減できるという意味ではありません。AIを使うときにも入力準備、照合、修正、送信の作業が残ります。
編集できる業務棚卸しテンプレート
複数の仕事を並べるCSVと、一つの候補を詳しく整理するMarkdownを用意しました。自社の情報分類や利用ルールに合わせて編集し、社内で利用できます。
記入ガイドと候補業務のひな型をMarkdownでダウンロード
CSVには「架空例」と「自社入力」の行があります。架空例を参照したら削除し、自社入力の行をコピーして追加してください。数式、自動採点、プルダウンはありません。文字化けする場合は、表計算ソフトの取り込み機能で文字コードをUTF-8に指定します。
棚卸し表には顧客名、個人の評価、契約金額などの実データを書かず、扱う情報の種類を記録してください。表を外部のAIへ送る場合も、社内の入力ルールに沿って確認します。
一業務を試し、手順と結果を残す
選んだ業務では、担当者が完成の条件を先に書きます。たとえば商品案内メールなら「公開資料と仕様が一致する」「未掲載の価格や約束を追加しない」「担当者が送信前に確認する」と決めます。
試行中は、通常の作業時間とAIを使った全作業の時間を記録してください。AI使用時は入力準備、生成、確認、修正、最終処理を含めます。必要な品質を満たしたかも確認し、時間が増えた場合はそのまま記録してください。
続けられそうな作業は業務カードにまとめ、別の社員にも試してもらってください。入力条件で迷う場合はAIの利用ルールを先に整理してください。研修後の実践は4週間の進め方でも説明しています。
AMANEZUKUのAI研修・導入支援では、社員の仕事から試す業務を選び、手順と確認点を整理します。主な相談対象は群馬県内の中小企業です。お問い合わせには、業務の概要と選定で迷っている点を記入してください。
手順の共有や再利用を扱うSaaSは開発中です。この棚卸しは、既存の表計算ソフトや社内文書でも進められます。

